太陽光発電の新たな売電制度「FIP(フィップ)制度」について、「具体的にどんな制度なの?FITとはどう違うの?」といった疑問を持っている人がいるのではないでしょうか?
FIP制度は今まで主流だったFIT制度に替わる新たな売電の形として注目されています。しかしFIP制度が始まってから間もないため、具体的にどんな制度なのかが分かりづらいかもしれません。
今回の記事は、FIP制度について以下の内容を解説します。
- FIP制度の概要や導入された背景
- FIP制度の重要なキーワードや種類
- FIP制度とFIT制度との違い
- FIP制度のメリット・デメリット
- FIP制度の今後
本記事を読めばFIP制度への理解が深まり、FIT制度よりも売電収入が増える可能性があります。ぜひ参考にしてみてください。
FIP制度とは?
FIP制度は「Feed in Premium(フィールドインプレミアム)」の略で、2022年4月から新たにスタートした売電制度です。日本では導入されて間もないFIP制度ですが、太陽光発電の普及が進んでいるドイツやデンマークなどのヨーロッパ諸国ではすでに導入されています。FIP制度の特徴は売電収入が市場価格と連動して変化するという点です。FIP制度の売電収入は毎月更新される「基準価格(FIP価格)」によって決まります。基準価格は市場価格と連動している「参照価格(発電事業者の収入)とプレミアム(補助金)によって算出されるため、売電収入は月によって変化します。
また現状でFIP制度の対象となる容量は50〜1,000kW未満(FITかFIPを選べる)と1,000kW以上(FIPのみ)となっています。FIT制度は売電単価が年々下がっていくことが分かっていることから、新たな売電収入の形として注目されているのがFIP制度です。
FIP制度が導入された背景
FIP制度が導入された背景にはFIT制度を実施して出てきた2つの課題が関係しています。1つ目の課題は、FIT制度で太陽光発電を普及させるために国民が負担している「再エネ賦課金」が増加していることです。再エネ賦課金は電力会社が再生可能エネルギー(以後、再エネ)を固定された単価で買い取る資金の一部にあてられています。また国は今後も太陽光発電などの再エネの導入を拡大することを目的としているため、ますます再エネ賦課金の負担額が上がってしまうでしょう。経済産業省の見込みでは、2021年度における再エネ賦課金の負担額は2.7兆円にまで膨れ上がっています。そこで再エネ賦課金による国民の負担を減らすために、FIT制度に替わるFIP制度を導入しました。
2つ目の課題は、FIT制度が価格の変動する電力市場から切り離されていることです。FIT制度は電力市場の影響を受けない固定価格買取制度なので、売電するタイミングや需要と共有を意識する必要がありません。しかし再エネ電源を今以上に普及させてメインの電源にするには、他の火力や原子力などと同じように電力市場と連動する自立したものにする必要があります。他の電源と同じように電力の需要と供給によって価格が変動するFIP制度は、中長期的に再エネ電源を拡大していくことが期待されています。このような背景もあり電力市場と連動するFIP制度が導入されました。
FIP制度を理解する上で重要な4つのキーワード
FIP制度を理解する上で知っておきたい4つのキーワードは以下のとおりです。
- 基準価格
- 参照価格
- プレミアム
- バランシングコスト
それぞれ解説します。
基準価格
基準価格(FIP価格)はFIP制度における1kWあたりの売電単価です。FIP制度を開始した当初はFIT制度の調達価格(売電単価)と同じ水準にすることが決められており、プレミアム(詳細は後述)が付与される20年間は一定の金額となっています。基準価格を求める計算式は「参照価格(発電事業者の収入)+プレミアム(補助金)」です。また2023年度の基準単価は以下のようになっています。
電源 | 規模 | 2023年度 |
事業用太陽光発電 | 10kW以上・50kW未満 | 10円 |
50kW以上(入札対象外) | 9.5円 |
※参考:経済産業省
参照価格
参照価格は発電事業者が電力市場で取引した際に期待できる収入です。参照価格はJPEXという卸電力市場や非化石価値取引市場の価格、バランシングコスト(詳細は後述)をもとに算出されており、計算式は「卸電力市場の価格+非化石価値取引市場の価格-バランシングコスト」で求められます。また参照価格は各市場の価格と連動して常に変動するため1カ月ごとに機械的に更新されます。
プレミアム
プレミアムは「基準価格-参照価格」によって求められる補助金です。このようにFIP制度では基準価格と参照価格の差額が生まれることで、プレミアムをプラスした売電収入を得ることができます。参照価格は各市場と連動して変動するため、プレミアムの価格も同じように1カ月ごとに更新されます。またプレミアムは基準価格よりも参照価格が高騰したとしても、マイナスになることはありません。
バランシングコスト
バランシングコストは参照価格を算出するために必要なものです。FIP制度は電力市場における需要と供給のバランスを整えなければいけません。このバランスを整えることを「バランシング」といいます。バランスを整えるには「計画値」を作成して実際の発電量となる「実績値」との一致が必要です。しかし計画地と実績値が合わない状態(インバランス)の場合は、他の発電事業者とのバランスを整えるためにバランシングコストという費用で補うことになっています。2022年度の開始当初のバランシングコストは1kWhあたり1円となっており、2023年度から徐々に減少していきます。
※参考:経済産業省
FIP制度の種類
FIP制度には以下のような3つの種類があります。
- プレミアム「固定型」FIP
- プレミアム「固定型(上限・下限あり)」FIP
- プレミアム「変動型」FIP
それぞれ解説します。
プレミアム「固定型」FIP
プレミアム「固定型」FIPは、変動する市場価格に応じた売電収入と固定されたプレミアムが付与される方法です。本来のプレミアムは「基準価格-参照価格」で算出され毎月変動しますが、固定型は価格が一定になります。そのため売電収入は市場価格が高騰すれば普段よりも多くなるでしょう。またプレミアムが固定されることにより、これまで普及のために国民が負担してきた再エネ賦課金を削減しやすくなります。一方、市場価格に左右されることで安定した売電収入が得られなかったり、収益予測が立てづらいといったデメリットもあります。
プレミアム「固定型(上限・下限あり)」FIP
プレミアム「固定型(上限・下限あり)」FIPは、市場価格とプレミアムの合計に上限と下限を設定した方法です。市場価格が大幅に上下しても上限と下限があるため、安定した売電収入を得られたり収益予測が立てやすくなります。市場価格が大きく下落した場合は、下限が設定されているため売電収入への影響を最小限に抑えることが可能です。一方で上下の適正価格を見極めるのが難しかったり、市場価格が高騰しても上限以上のプレミアムが付与されません。
プレミアム「変動型」FIP
プレミアム「変動型」FIPは、市場価格によってプレミアムが変動する方法です。市場価格とプレミアムの金額が常に一定になるように設定するため、市場価格の大きな変動に対して売電収入への影響が少なくなったり収益予測が立てやすくなります、一方、市場価格が大きく下落した場合はプレミアムの割合が増えてしまうため、それを補うために再エネ賦課金の負担も増加する可能性があります。
FIT制度との違い
FIT制度とFIP制度の違いは以下の通りです。
- 目的
- 売電収入
- インバランス
- 非化石価値取引
それぞれ解説します。
目的
FIT制度とFIP制度では目的が大きく異なります。FIT制度は再エネである太陽光発電を普及させる目的で導入されました。太陽光発電の導入には高額な費用が発生するため、少しでも参入障壁を下げて早期に回収できるように、電力市場に影響されないよう売電単価を固定しています。一方でFIP制度は再エネをメインの電源として使用するために電力市場への統合を目指すことで市場競争を促進したり、プレミアムを付与することで再エネ事業者への後押しを目的にしています。
売電収入
FIT制度の売電収入は単価が固定されているため、電力市場の価格の上下や売電するタイミングに関係なく一定です。一方、FIP制度の売電収入は参照価格やプレミアムで変動するため、電力市場の影響を受けて変動することになります。現状ではプレミアムが付与されることにより、FIT制度と同等の売電収入が得られるようになっています。
インバランス
FIT制度の場合は電力市場と切り離した売電単価が採用されており、需要と供給のバランスが取れていない状況(インバランス)でも「インバランス特例」として負担はありませんでした。しかしFIP制度は電力市場への統合を目的としているため、インバランスが起きてしまうと補うためにバランシングスコストが発生します。バランシングコストは年々下がっていくことが分かっているため徐々に負担額は減少していきます。
非化石価値取引
FIT制度では再エネ賦課金を国民が負担していることで、非化石価値取引ができませんでした。非化石価値は化石燃料を使用しない非化石発電方式による電気の「非化石価値」のことです。非化石価値取引は発電事業者と小売電気事業者によって売買されています。一方、FIP制度では非化石価値を非化石価値市場で売却することが可能です。ただし非化石価値を売却した場合は、プレミアムに含まれる環境価値のインセンティブと二重に得てしまうことになります。そのためプレミアムから非化石価値の価格を差し引く必要があります。
FIP制度のメリット
FIP制度のメリットは以下のとおりです。
- 戦略が立てやすい
- 再エネの普及加速
それぞれ解説します。
戦略が立てやすい
FIP制度は電力市場に連動しているため、価格が高いときは積極的に売電して価格が下落しているときには消極的にメンテナンスをするなどの戦略が立てやすくなっています。また蓄電池を有効活用することで、さらに効果的な運用ができるようになるでしょう。例えば電力需要が少なくなり売電価格が下がっているときは、蓄電池に電気を貯めておきます。電力需要が高くなったタイミングで売電すれば、価格が下落しているときの対策として有効でしょう。
再エネの普及加速
FIP制度はFIT制度にはないプレミアムという補助金を受けながら売電収入を得られるため、今後の再エネの普及が期待されています。一方、FIT制度では再エネ賦課金の負担額が増えてきており再エネを普及することへの障壁になってきています。国は再エネの普及を推進していることから、今後も再エネ事業者にメリットのある制度が導入されるかもしれません。再エネ事業者が新規参入しやすい環境になり市場競争が活発になれば、電気料金の下落に期待することができるでしょう。
FIP制度のデメリット
FIP制度のデメリットは以下のとおりです。
- 運用コストが高い
- 長期的な戦略は立てづらい
それぞれ解説します。
運用コストが高い
FIP制度を活用して安定した売電収入を得るには、高額な産業用の蓄電池を設置する必要があります。例えば晴れの日には電力供給が多くなり市場価格が下がります。しかし雨などの悪天候の日には電力供給が少なくなるため市場価格が上がります。このときに晴れの日に多くの電力を蓄電池に蓄えられていた場合、電力供給が少ないタイミングで売電すれば安定した収入が得られる可能性が高いといえるでしょう。そのための蓄電池が必要になるものの、産業用の蓄電池は家庭用よりも高額なので数を揃えようとすればコストが高くなります。少しでもコストを抑える場合は補助金の活用を検討しましょう。
長期的な戦略は立てづらい
FIP制度は1カ月ごとに変動する参照価格やプレミアムの価格に影響を受けるため、長期的な収益予測や戦略が立てづらくなっています。需要と供給を見極めて戦略を立てることで収益を狙いやすくなりますが、価格が常に変動することで予想外に売電収入が下がってしまうかもしれません。そのため電力需要と供給から売電するタイミングを見極めたり、蓄電池を導入して需要の多い日に売電するなど効率よく運用することが求められます。現状のFIP制度では長期的な戦略や予測が立てづらいため、いかに短期間で導入費用を回収して収益が上げられるのかが重要だといえるでしょう。
FIP制度の今後
FIP制度は始まったばかりであり課題もあります。そのため課題を解消するための多様なビジネスモデルの展開が考えられます。現状のFIP制度では全ての再エネ事業者がバランシングできるとは限らず、バランシングコストが発生すれば大きな負担になるでしょう。そのためバランシングを調整するアグリゲーション事業が増えていく可能性があります。このような新たなビジネスモデルが展開されることでFIP制度の課題が解消されれば、再エネ事業者の参入障壁が低くなり普及が進んでいくでしょう。
まとめ
太陽光発電のFIP制度はFIT制度に替わる新たな売電収入の形です。日本では2022年に導入されたばかりで、現状では50kW以上の再エネ事業者から適用されています。FIP制度は電力市場の影響によって売電収入が左右されるため、長期的な戦略が立てづらかったり運用コストが高額になったりします。一方、電力市場を見極めれば短期的な戦略が立てやすく大きな収益が見込めたり、今後の再エネ普及を加速させる要素があったりすることがメリットです。FIP制度は慣れ親しんだFIT制度とは目的や仕組みが大きく異なっているものの、FIT制度の課題を解消するために導入されました。まだまだ課題はあるものの、今後のスタンダードになりうる制度として活用されていくでしょう。50kW以上の再エネ事業者は制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか。