電気自動車のバッテリー寿命は使い方次第!長持ちさせる方法も解説
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・リチウムイオン電池は充放電を行う仕組みがあり、正極から負極へリチウムイオンが移動することで電気エネルギーを放出・蓄積する。 ・電気自動車のバッテリー寿命は一般的に8年または16万kmとされ、使用環境や使い方によって異なるため、メーカーの保証内容が目安となる。 ・バッテリーの劣化原因には急発進、高速走行、日常的な充放電、過充電・過放電などがあり、高温に弱いため注意が必要。 ・劣化したバッテリーは航続距離の短縮や充電回数・時間の増加を引き起こし、バッテリー交換は40~90万円と高額であるため、必要に応じて新車への乗り換えも検討される。 ・東芝の「SCiB」は高寿命・短時間充電が可能で、劣化に強い特性があるが、高コストと電圧が低いという欠点がある。
▼ 目次
「電気自動車のバッテリーの寿命って、どれくらいなんだろう?」「バッテリーを少しでも長持ちする方法はあるの?」という疑問を持っている人がいるのではないでしょうか。
電気自動車は自宅でも気軽にバッテリーへ充電できる一方で、使用環境や使い方次第でバッテリーの寿命が短くなってしまいます。そのため電気自動車のバッテリーについて学び、使い方を意識した生活が大切です。
今回の記事では、電気自動車のバッテリーの基礎知識や寿命を延ばすポイント、交換タイミングと費用などを解説しています。本記事を読めば電気自動車のバッテリーについて理解が深まるため、寿命を伸ばしたり交換費用を節約できるでしょう。ぜひ参考にしてみてください。
電気自動車のバッテリーには寿命がある
電気自動車のバッテリーには寿命があります。バッテリーの寿命が劣化する原因や延ばすためのポイントを知る前に、基礎知識として覚えておくと良いでしょう。ぜひ学んでみてください。
リチウムイオン電池の仕組み
電気自動車のバッテリーには「リチウムイオン電池」が使用されています。リチウムイオン電池とは「正極」と「負極」の間をリチウムイオンが移動し、一定回数を限度として繰り返し充放電できる電池のことです。リチウムイオン電池の種類によっては、安全性の高さ・寿命の長さ・出力の高さなどが異なります。
リチウムイオン電池の主な内部構成は、正極と負極、これらの2極をわけるためのセパレータ、リチウムイオンが移動するための電解液です。リチウムイオン電池が電気を貯める仕組みは、以下のようになっています。
※引用元:TOSHIBA
リチウムイオン電池に充電器から電気を流すと、正極側のリチウムイオンが電解液を通して負極側に移動する仕組みです。移動する際に電位差(2点間の電位の差)が生まれて、充電することができます。
リチウムイオン電池から電気を放電するときは、以下のとおりです。
※引用元:TOSHIBA
正極から負極へリチウムイオンを移動させるために、放電回路を作ります。負極側に貯めていたリチウムイオンが正極へ移動することで、電気エネルギーを放出することが可能です。このようにリチウムイオン電池は、充放電ができるようになっています。
電気自動車のバッテリー寿命は主に8年・16万km
電気自動車のバッテリー寿命は、一概に何年で使えなくなるということは断定できません。電気自動車は使用環境や使い方によって、バッテリーの寿命が変化します。ただし一般的なバッテリーの寿命は、8年・16万km・容量が目安だと思っておくと良いでしょう。
自動車メーカーの多くは、以下のように保証期間を8年または16万kmとしています。
【各自動車メーカーのバッテリー保証内容】
メーカー | 保証内容 |
トヨタ | 8年または16万km(バッテリー容量70%以下は10年) |
日産 | 8年または16万km |
ホンダ | 16万kmまで容量70%以下 |
スバル | 8年または16万kmかつ容量70%以下 |
三菱 | 8年かつ16万km以内で容量70%以下(ekクロスEVなどは66%以下) |
このように自動車メーカー側は、あくまで一般的な乗り方をしている場合に支障をきたすであろう年数・距離数・容量の保証内容しか記載していません。断定的に電気自動車のバッテリー寿命が記載できない以上は、自動車メーカーの記載を目安にすると良いでしょう。
電気自動車のバッテリーが劣化する原因
電気自動車のバッテリーは寿命があるものの、使用環境や使い方次第では劣化が進んでしまいます。具体的にどのような原因でバッテリーが劣化するのかを解説するので、ぜひ電気自動車に乗る際は意識してみてください。
急発進や長時間の高速走行が多め
電気自動車で急発進や長時間の高速走行が多い場合は、バッテリーの劣化が進む原因になるでしょう。電気自動車のバッテリーであるリチウムイオン電池は高温に弱く、温度が上がる環境下で使用していると劣化が進みます。
国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センターの劣化試験によると、リチウムイオン電池を60℃で使用した場合の劣化割合は20%以上という結果になりました。
ガソリン車よりもダイレクトな加速が実現できる一方で、急加速するとバッテリーの温度が上昇して負担をかけてしまいます。また長時間の高速走行においても、バッテリーの温度が上がりやすくなるでしょう。
このように急加速や長時間の高速走行の頻度が多ければ、バッテリーの温度が上がりやすくなるため劣化が進んでしまいます。
※参考:国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センター
日常的な充放電回数が多い
日常的に充放電回数が多い場合も、バッテリーの劣化につながります。リチウムイオン電池には「サイクル数(0%→100%→0%で1サイクル)」という寿命があり、充放電回数が多くなることで早く劣化してしまうでしょう。
例えば家庭用蓄電池のリチウムイオン電池のサイクル数は、約6,000〜12,000回が目安です。しかし電気自動車のリチウムイオン電池のサイクル数に関しては、詳細な数字が公表されていないためわかりません。
自動車メーカーの8年という保証内容から考えると、単純計算で「365日×8年=2,920回」のサイクル数になります。また蓄電池よりも容量が多いため、普段の走行距離が短ければ毎日充電する必要はありません。
ただし電気自動車は急加速や長時間の高速走行、使用回数などの要因で充放電回数が多くなる(サイクル数を消費する)可能性があります。そのため蓄電池のサイクル数を目安にできないため、自動車メーカー側は年数や距離数などで保証していると考えられるでしょう。
このように電気自動車のリチウムイオン電池は使い方次第で充放電回数(サイクル数)が多くなり、早期に劣化しやすくなる可能性があります。
過充電や過放電をしてしまう
電気自動車を過充電・過放電してしまうことでもバッテリーの劣化が進みます。少しでも多く充電しようと満充電の状態で放置すると、化学変化が必要以上に促進されてしまいバッテリーの劣化につながるでしょう。
そのほか急速充電の使い過ぎも注意です。高速走行などを続けて充電がなくなったときのバッテリーは、かなり高温な状態になっています。このような状態でバッテリーに負荷がかかる急速充電を多用すると、劣化しやすくなるといえるでしょう。
長期間、電気自動車に乗らずに放置する過放電の状態でもバッテリーが劣化します。リチウムイオン電池の特性として、充電が完全に0になってからも放電は止まりません。このような場合はバッテリー内の電解質や電極などからリチウムイオンを生み出そうとするため、急速な劣化が進んでしまいます。
またリチウムイオン電池は高温に弱いため、炎天下のなかで過放電が起きている状態でも急速な劣化の原因になるでしょう。過放電・過充電(特に炎天下のなか)は、バッテリーを急速に劣化させるため注意が必要です。
電気自動車のバッテリー劣化によるリスク
電気自動車のバッテリーが劣化すると、2つのリスクが発生します。2つのリスクを理解しておくことで、バッテリー劣化への意識が変わるでしょう。どんなリスクがあるのかを解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
航続距離が短くなる
わかりやすいリスクとしては、バッテリーが劣化することで航続距離が短くなることです。バッテリーは劣化するほど充電できる容量が減っていくため、新車時よりも航続距離が減ってしまいます。
たとえば新車時の航続距離が500kmの電気自動車を購入したとしましょう。バッテリーの劣化により本来の容量の80%しか充電できなくなっている場合、航続距離は「500km×80%=400km」に短くなります。
新車時よりも100kmも航続距離が短くなるため、長距離移動がしにくくなるでしょう。電気自動車の充電ステーションは増えているものの、地域によっては数が少ない場合があります。目的地によっては綿密な充電計画が必要になるでしょう。
充電回数や時間が増加する
バッテリーの劣化によって航続距離が短くなると、充電回数・時間が増加するでしょう。充電回数が増えるということは、サイクル数を消費する頻度が増加することを意味しています。つまり寿命が短くなるスピードが加速していくということです。
また充電回数が増えることで、充電する時間も増えることになります。電気自動車の急速充電は一般的に1回で30分ほどの利用が可能です。例えば同じ距離の長距離移動でも急速充電の回数が「2回(+約1時間)→4回(+約2時間)」に増えてしまうと、目的地に到着する時間が遅くなります。
このように電気自動車のバッテリー劣化には、充電回数・時間の増加というリスクがあります。せっかくの旅行で充電時間が余計にかかるのは、デメリットといえるでしょう。
電気自動車のバッテリー寿命を伸ばすポイント
電気自動車のバッテリーの寿命を延ばすポイントは4つあります。4つのポイントを知っておくことで、できる限りバッテリー劣化を抑えて寿命を延ばせるようになるでしょう。ぜひ参考にして実践してみてください。
丁寧な運転を心掛ける
電気自動車に乗る際は、ゆっくりスタートすることやスピードを出し過ぎないなどの丁寧な運転を心がけましょう。バッテリーに負担をかけて高温になるような急加速・長時間の過度な高速走行は劣化を早めてしまいます。
また丁寧な運転を心がけることで、自動車事故の防止にもつながるでしょう。このように日常的な運転を見直すことで、バッテリー劣化を抑えて事故防止につながるという一石二鳥のメリットがあります。
充電の目安は約30~80%
充電する際はバッテリー容量の約30〜80%を目安にしましょう。バッテリーは過充電・過放電によって劣化が加速します。少しでも多く充電したいからといって毎回100%近くまで充電したり、少しでも使い切りたいという思いで0に近くなるまで充電しないことは避けてください。
どうしても満充電にする必要がある場合は、旅行や仕事で長距離移動がわかっている日の前日だけに限定すると良いでしょう。一般的にバッテリー劣化が抑えられる理想の充電容量は30〜80%とされています。過充電・過放電を避けてバッテリー劣化を抑えてみてください。
急速充電の多用は禁物
急速充電は短時間で充電できる便利な設備ですが、多用するとバッテリー劣化につながります。急速充電が短時間で充電できるのは、家庭用の充電器よりも多くの電流を流しているためです。
電流の量が多くなるほど高温に弱いバッテリーの温度が高くなるため、急速充電を多用すると劣化を加速させてしまいます。すぐに大きな劣化につながるわけではないものの、積み重ねることで確実に状況は悪くなるでしょう。そのため急速充電の回数を抑えて、負荷の少ない普通充電を活用すると良いでしょう。
炎天下で放置しない
電気自動車のバッテリーは高温に弱いため、炎天下のなかで放置すると劣化が進みます。また炎天下のなかで長期間、電気自動車を放置することも劣化につながる原因です。
国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センターの劣化調査によれば、バッテリー温度が40℃の状態で400日間放置すると6%劣化することがわかっています。
また放置に加えてバッテリー温度が上がるほど、比例して劣化する割合も上昇。炎天下で電気自動車を放置するのはバッテリーにとってデメリットしかないため、日陰のある車庫や駐車場を活用してください。
※参考:国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センター
電気自動車のバッテリー交換タイミングと費用
電気自動車のバッテリーは交換できます。しかしバッテリー交換のタイミングや費用は、事前に知っておかないとわかりにくいでしょう。それぞれ解説するので、バッテリー交換の必要性が出た際は参考にしてみてください。
バッテリーは交換できる
電気自動車のバッテリーは、劣化が進んで日常的な使用に支障をきたすようになった場合に交換できます。バッテリーの交換は自分では行えないため、自動車ディーラーや整備工場などで交換してもらうのが一般的です。
バッテリー交換はガソリン車に例えるとエンジンを載せ替えるようなものなので、かなり大掛かりな作業が必要になります。そのためディーラーや大きめの整備工場など、設備が整っているところに依頼すると安心でしょう。
バッテリー交換時期は保証期間を参考にする
バッテリーの交換時期は、多くの自動車メーカーの保証期間である8年または16万km、容量70%が参考になります。しかし、この保証期間は目安なので、使用環境や使い方次第では早めの交換が必要になることも十分に考えられるでしょう。
そのため航続距離が明らかに短くなり充電回数が増えてきたと感じる場合は、購入した自動車ディーラーや販売店に相談してみてください。
バッテリー交換費用は約40~90万円と高額
バッテリー交換の費用は工賃などを含めて約40~90万円ほどと、かなり高額です。日産が2018年に発表した日産リーフの「有償交換プログラム」における、バッテリー交換費用は以下のようになっています。
【新品バッテリー】
- 24kWh:65万円
- 30kWh:80万円
- 40kWh:82万円
なお使用済み再生バッテリーに関しては24kWhで30万円です。再生バッテリーを活用すれば費用は半額になるものの、まだまだバッテリー交換費用は高額といえるでしょう。海外製の電気自動車のなかには、新品の交換費用で数百万円になるケースがあります。
※参考:日産有償交換プログラム
場合によっては新車を検討する
電気自動車においてバッテリー交換は、ガソリン車でたとえるならエンジン載せ替えと同義だといえます。つまり一般的にはバッテリーの交換時期が来たら、電気自動車の乗り換え時期といっても過言ではないでしょう。
バッテリーが必要な時期にはバッテリーだけではなく、ほかの部分の劣化も進んでいる可能性があります。電気自動車のバッテリー交換は高額な費用が発生するため、予算があれば新車への乗り換えを検討してみましょう。
将来的には東芝のリチウムイオン電池に期待
電気自動車のバッテリーは劣化が進むことがデメリットであるものの、東芝のリチウムイオン電池のなかには劣化に強いものがあります。将来的に普及すれば電気自動車の使い勝手が、さらに良くなる可能性があるでしょう。
高寿命・短時間充電が可能なSCiB
東芝が開発した画期的なリチウムイオン電池「SCiB」の強みは、ほとんど劣化しないという点です。たとえばSCiBを搭載したアイミーブでは、10年落ちにも関わらず容量100%を維持している個体が確認されています。
つまりSCiBを電気自動車に普及させることで、現状よりも電気自動車の寿命が伸びることになるでしょう。またSCiBは「3分の急速充電で80%もの充電が可能」であることも強みです。
しかし劣化しないというメリットがある一方で、高コストかつ電圧が低いという欠点もあります。
※参考:Motor-Fun CAR
※参考:エコノミストOnline
高コスト・電圧が低い欠点もある
SCiBが普及していない理由として、高コストかつ電圧が低いという欠点が挙げられます。電池1個あたりの電圧が低くなれば、航続距離を伸ばすために大量の電池が必要です。
たとえばテスラのモデル3の電池と比べた場合、1台あたり10個の電池を搭載してもテスラの約1/200ほどにしかなりません。しかも1個あたりの単価も高いため、航続距離を伸ばそうとすればコストが高くなり過ぎてしまう欠点があります。
※参考:エコノミストOnline
SCiBの進化で電気自動車の未来が変わる可能性あり
東芝はSCiBを、さらに進化させようと「ニオブ」という希少金属を使用したリチウムイオン電池の開発を行っています。新開発のリチウムイオン電池が世に出ればエネルギー密度が1.5倍になり、6分の急速充電でSCiBよりも1.6倍の充電が可能。
電圧やコストの面で一般的な電気自動車への普及は、まだまだ先の話といえます。しかし将来的にSCiBの進化によって電圧やコスト、充電時間などのデメリットがクリアできれば、電気自動車の未来は大きく変わるでしょう。
※参考:エコノミストOnline
まとめ
電気自動車のバッテリー寿命は、一概に「いつまで」とはいえない現状があります。そのため目安としては自動車メーカーの保証期間である「8年または16万km、容量70%以下」を参考にすると良いでしょう。
電気自動車のバッテリーは急加速や長時間の高速走行、過充電・過放電などのさまざまな要因によって劣化します。そのため当記事で解説した劣化する原因を事前に把握していただき、日々の生活で意識しながら電気自動車に乗ることが大切です。
電気自動車のバッテリーの劣化は急激に起こらないものの、細かい要因の積み重ねで確実に加速するでしょう。保証期間が過ぎた場合のバッテリー交換には高額な費用がかかります。できる限りバッテリーを劣化させず、長持ちするような電気自動車ライフを送りましょう。