近年、国が推奨している「ZEH(ゼッチ)」という新時代のエコな住宅について、気になっている人がいるのではないでしょうか?
ZEHは既存のエネルギー消費量を抑えて、できる限り自家発電や自家消費をしてエコな生活を実現するための住宅です。ZEHは国が普及させつつあるとはいえ、具体的にどんな住宅で、どんな種類やメリットがあるのかといった部分は分からないかもしれません。
今回の記事は、ZEHについて以下の内容を解説します。
- ZEHの基礎知識
- ZEHに必要な3つの要素
- ZEHの種類
- ZEHのメリット・デメリット
- ZEHで活用できる補助金
- ZEHで補助金を活用する際の注意点
- ZEH利用者の声
ZEHに住むことで、電気代の大幅な削減効果など多くのメリットが得られるため、気になる人は参考にしてみてください。
ZEHとは省エネ&創エネが実現できる住宅
ZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略称で、通称「ゼッチ」と呼ばれています。太陽光発電による創エネや断熱性能を高めるなど省エネ性能に優れており、1年間の生活で消費するエネルギーを限りなくゼロにするための住宅です。ZEHは創エネと省エネを組み合わせた、究極のエコ住宅といえるでしょう。
ZEHが普及している理由
ZEHが普及している理由は、国がエコでより快適な社会を実現させるために推奨しているからです。2014年に閣議決定された「エネルギー基本計画」において「2030年までに新築住宅の平均でZEHを目指す」といった内容が掲げられました。さらに2021年10月の「第6次エネルギー基本計画」では下記の目標が定められています。
- 2030年度以降、新築される住宅についてZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す
- 2030年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指す
国がZEHの普及に関して力を注いできた結果、2020年にはハウスメーカーが新築する注文戸建住宅の約56%がZEHになっています。日本は住宅のエネルギー消費が大きいという現状があり、ZEHの普及はエネルギー自給率の向上にもつながります。
ZEHに必要な3つの要素
ZEHは以下の3つの要素が必要です。
- 創エネ
- 省エネ
- 断熱
それぞれ詳細に解説します。
創エネ
創エネとは「エネルギーを作り出す」ことです。ZEHは1年間の生活で消費するエネルギーを、太陽光発電で作り出して自家消費することが求められます。創エネを実現すれば、電力会社から購入する電気に依存しない生活を手に入れることが可能です。
省エネ
省エネは、電気の使用量を抑えられる設備を導入する必要があります。例えば、家庭内の電力使用量が「見える化」できるHEMS(Home Energy Management System)の設置は必須です。その他にも省エネ性能が高いエコキュートやエアコン、LED照明などを導入して、電気の消費を抑えることが求められます。
断熱
断熱は、断熱性の高い窓や高断熱材などを活用して、熱を室内外に伝えづらくする性能のことです。断熱性能が高くなれば、夏は外気の熱が室内に入りづらく、冬は室内の熱を外に逃がしづらくなります。冷暖房器具の使用頻度が減るため、エネルギー消費を抑えることが可能です。
ZEHの種類
ZEHといっても1種類ではなく、細かく分けると以下の6つがあります。
- ZEH
- Nearly ZEH
- ZEH Oriented
- ZEH+
- Nearly ZEH+
- 次世代ZEH+
それぞれで条件が異なるため詳しく解説します。
ZEH
ZEHは以下の条件(※1)に適合する必要があります。
- ZEH強化外皮基準をクリアしていること
(1~8地域の平成28年省エネルギー基準を満たした上で、UA 値[W/m2 K]が1・2地域で0.4以下、3地域で0.5以下、4~7地域で0.6相当以下) - 太陽光発電を除いた基準一次エネルギー消費量から、20%以上の一次エネルギーを削減すること
- 太陽光発電を導入すること
- 太陽光発電を導入して、基準一次エネルギー消費量から100%以上の一次エネルギーを削減すること
Nearly ZEH
Nearly ZEH(ニアリー・ゼッチ)はZEHの条件を緩和したもので、以下の条件(※1)に適合する必要があります。
- ZEH強化外皮基準をクリアしていること
(ZEHと同条件) - 太陽光発電を除いた基準一次エネルギー消費量から、20%以上の一次エネルギーを削減すること
- 太陽光発電を導入すること
- 太陽光発電を導入して、基準一次エネルギー消費量から75%以上、100%未満の一次エネルギーを削減すること
ZEH Oriented
ZEH Oriented(ゼッチ・オリエンテッド)はZEHの条件をさらに緩和したもので、以下の条件(※1)に適合する必要があります。
- ZEH強化外皮基準をクリアしていること
(ZEHと同条件) - 太陽光発電を除いた基準一次エネルギー消費量から、20%以上の一次エネルギーを削減すること
※1 参考:ZEHの定義(改定版)
ZEH+
ZEH+(ゼッチ・プラス)は、ZEHよりも高性能な条件が求められています。ZEHの条件を満たしていることに加えて、以下の条件(※2)に適合する必要があります。
- 設計一次エネルギー消費量は太陽光発電を除いた、基準一次エネルギー消費量から25% 以上削減されていること
- 以下のうち2つ以上を導入すること
①外皮性能のさらなる強化
②高度エネルギーマネジメント(HEMS)
③電気自動車(プラグインハイブリッドを含む)を活用した充電・充放電設備
Nearly ZEH+
Nearly ZEH+(ニアリー・ゼッチ・プラス)は、Nearly ZEHよりも高性能な条件が求められています。Nearly ZEHの条件を満たしていることに加えて、以下の条件(※2)に適合する必要があります。
- 設計一次エネルギー消費量は太陽光発電を除いた、基準一次エネルギー消費量から25% 以上削減されていること
- 以下のうち2つ以上を導入すること
①外皮性能のさらなる強化
②高度エネルギーマネジメント(HEMS)
③電気自動車(PHVを含む)を活用した充電・充放電設備
※2 参考:省エネ基準の次はZEHにもチャレンジしてみよう![基本編]
次世代ZEH+
次世代ZEH+は、ZEH+の条件に加えて以下(※3)に適合する必要があります。
- 以下の設備いずれか1つ以上を導入すること
①蓄電池システム
②燃料電池
③V2H充電設備
④太陽熱利用温水システム
⑤太陽光発電システム10kW以上
※3 参考:2022年の経済産業省と環境省のZEH補助金について
ZEHのメリット
ZEHのメリットは以下のとおりです。
- 光熱費を削減できる
- 売電収入を得られる
- 停電対策になる
- 冬でも夏でも快適になる
- ヒートショック防止になる
- 資産価値が上がる可能性がある
それぞれ詳細に解説します。
光熱費を削減できる
ZEHは「創エネ・省エネ・断熱性能」に優れた住宅なので、大幅な光熱費の削減が実現できます。太陽光発電で電気を作り出せること、電力を無駄に消費しないための省エネ設備を導入すること、冷暖房機器の使用頻度を抑えられる断熱性能の高さといった強みがあります。
売電収入を得られる
ZEHは太陽光発電を導入することが条件(ZEH Oriented以外)に含まれています。太陽光発電で作り出した電気は、電力会社へ売電することが可能です。自家発電・自家消費をしながら電気を売電できるため、電気代を削減しながら収入も得られるようになります。
停電対策になる
ZEHでは太陽光発電を導入する(ZEH Oriented以外)ため、停電時でも日照量があれば発電できます。発電した電気は、自立運転モードに切り替えることで使用(100V/1500Wまで)が可能です。また蓄電池を導入して活用すれば、太陽光発電の電気を貯めておくことができます。蓄電池には停電時に貯めた電気を自動で給電してくれるモードがあるため、さらに安心できるでしょう。
冬でも夏でも快適になる
断熱性能の高さが強みでもあるZEHは、室内外の熱を伝わりづらくして快適に過ごせるようになります。夏は室外の熱が室内に入りづらくなっていますし、冬は室内の熱が外ににげづらいようになっています。そのため冷暖房を使用する頻度が減ったり、普段以上に電気代が上がるような温度にしなくても快適に過ごすことが可能です。
ヒートショック防止になる
断熱性能が高いZEHは、部屋同士の温度差が少なくなります。快適に過ごせるメリットがあると同時に、冬に起こりやすいヒートショック(気温差で血圧が上下することで心臓や血管の疾患が起こる現状)を防ぎやすくなります。ヒートショックは脳内出血や心筋梗塞、脳梗塞など命に関わる病気を起こしかねないため、温度差が少なくなるのは大きなメリットといえます。また夏の熱中症対策の他、結露防止によるカビやダニの発生を抑えてアレルギーを抑える効果も期待できるでしょう。
資産価値が上がる可能性がある
ZEHは、一般社団法人「住宅性能評価・表示協会」の省エネ性能の高さを認定する「BELS(ベルス)」で、キラ星(※4)という最高評価を獲得できます。このような評価の高さや国が普及を進めていることもあり、ZEHは資産価値が上がることが考えられます。資産価値が上がれば、将来のZEHの売却額が高くなる可能性はあるでしょう。
※4 参考:一般社団法人 住宅性能評価・表示協会
ZEHのデメリット
ZEHはメリットばかりではなく以下の気になる点もあります。
- 一般的な住宅よりも高くなる
- 環境や天候次第で効果が減る
- メンテナンス費用が発せ資する
それぞれ詳細に解説します。
一般的な住宅よりも費用が高くなる
ZEHは一般的な同じ大きさの住宅よりも、約1割ほど費用が高くなるといわれています。これは太陽光発電や蓄電池、エコキュート、高断熱材など「創エネ・省エネ・断熱」を実現させるために必要な設備や環境を整えるためです。長期的に見れば節電効果が高い上に売電することが可能で、資産価値も上がる可能性を考えると1割程度の費用の増加は許容範囲だといえます。また新築でZEHにするほうが、リフォームで省エネを実現させるよりも割安だともいわれています。
環境や天候次第で効果が減る
太陽光発電を導入するZEHは、悪天候で日照量が少なければ十分な発電効果が得られない可能性があります。さらに風でチリやゴミなどが太陽光パネルに付着したり、影が発生しやすいと発電効率が落ちてしまいます。ただし日照量が少なくても発電効率が高めな太陽光パネルを導入したり、周りの環境を事前に調査をしてもらったりすれば効果の減少を抑えられる場合があります。
メンテナンス費用が発生する
ZEHは太陽光発電をはじめとして、様々な省エネ設備を導入することが多いため、それぞれのメンテナンスに費用が発生します。ただしメンテナンスをせずに放置して故障した際に、保証対象外の場合は費用がかさんでしまいます。ZEHであれば長期的に見て回収できる可能性があるため、十分な恩恵を受けるためにも定期的なメンテナンスの費用は必要経費だといえます。
ZEHで活用できる補助金
ZEHは一般的な住宅よりも割高ですが、補助金を活用して費用を抑えることができます。国や地方自治体の補助金例は以下のとおりです。
- ZEH支援事業
- 次世代ZEH+(注文住宅)実証事業
- 令和4年度 ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス補助金(小田原市)
それぞれ詳細に解説します。
ZEH支援事業
ZEH支援事業の要件(※5)は以下のとおりです。
対象者 | ・新築住宅を建築・購入する個人・新築住宅の販売者である法人 |
対象住宅 | ・ZEH・Nearly ZEH(寒冷地、低日射地域、多雪地域に限る)・ZEH Oriented(都市部狭小地の二階建以上及び多雪地域に限る)・ZEH+・Nearly ZEH+(寒冷地、低日射地域、多雪地域に限る) |
交付要件 | 【共通の要件】・SII(一般社団法人 環境共創イニシアチブ)に登録しているZEHビルダー/プランナーが設計や建築、販売に関わる住宅であること 【ZEH・Nearly ZEH・ZEH Orientedの場合】・ZEHの条件を満たしていること 【ZEH+・Nearly ZEH+の場合】・ZEHの条件を満たしていること・省エネ基準から25%以上の一次エネルギーの削減・以下のうち2つ以上を導入すること ①外皮性能のさらなる強化 ②高度エネルギーマネジメント(HEMS) ③電気自動車(PHVを含む)を活用した充電・充放電設備 |
補助額 | 【ZEH・Nearly ZEH・ZEH Orientedの場合】・55万円/戸 【ZEH+・Nearly ZEH+の場合】・100万円/戸 【ZEHまたはZEH+の要件を満たす場合】・蓄電池システム2万円/kWh (対象補助経費の1/3または20万円のいずれか低い額を加算)・直行集成板(CLT):90万円/戸・地中熱ヒートポンプシステ ム:90万円/戸・PVTシステム 【液体式】パネル面積5㎡以上8㎡未満:65万円/戸 パネル面積8㎡以上:80万円/戸 【空気式】90万円/戸・液体集熱式太陽熱利用システム パネル面積4㎡以上6㎡ 未満:12万円/戸 パネル面積6㎡以上:15万円/戸 |
次世代ZEH+(注文住宅)実証事業
次世代ZEH+支援事業の要件(※5)は以下のとおりです。
対象者 | ・新築住宅を建築する個人 |
対象住宅 | ・ZEH+・Nearly ZEH+(寒冷地、低日射地域、多雪地域に限る) |
交付要件 | ・ZEH+の条件を満たしていること・以下のいずれかを導入していること ①蓄電池システム ②燃料電池 ③V2H充電設備 ④太陽熱利用温水システム ⑤太陽光発電システム10kW以上 |
補助額 | ・100万円/戸・蓄電池システム2万円/kWh (対象補助経費の1/3または20万円のいずれか低い額を加算)・燃料電池2万円/台・V2H充電・充放電設備 (対象補助経費の1/2または75万円のいずれか低い額を加算)・太陽熱利用温水システム(液体式:17万円/戸 空気式:60万円/戸) |
※5 参考:2022年の経済産業省と環境省のZEH補助金について
令和4年度 ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス補助金(小田原市)
令和4年度 ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス補助金の要件(※6)は以下のとおりです。
対象者 | ・ZEHを新築または購入する個人 |
交付要件 | ・以下の対象設備を導入する、または導入された住宅の購入をすること ①暖冷房設備 ②換気設備 ③給湯設備 ④照明設備 ⑤創エネルギー設備・同一年度内で本市の家庭用エネルギー高度利用システム補助金を受けたことがある、または交付を受ける予定のある事業ではないこと |
補助額 | ・10万円/戸 |
※6 参考:令和4年度 ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス補助金
ZEHの補助金申請の注意点
ZEHの補助金を申請する際に注意すべきポイントは以下のとおりです。
- ZEHビルダー/プランナーを利用する
- 補助金新英語は変更ができない
- 補助金のスケジュールを確認する
それぞれ詳細に解説します。
ZEHビルダー/プランナーを利用する
国が実施しているZEHの補助金は「ZEHビルダー/プランナーが設計や建築、販売に関わる住宅」であることが条件です。ZEHを新築で建てる、または購入する際は必ず条件を満たしているか確認してください。
補助金申請後は変更ができない
ZEHの補助金を申請した後は、間取りや設備などの変更はできません。ZEHは条件に合うように計算された住宅なので、補助金を申請した内容通りの設計が求められます。補助金を申請しないのであれば変更は可能ですが、補助金を活用するのであれば変更などを行った上で最終的に申請しましょう。
補助金のスケジュールを確認する
補助金全般にいえることですが、申請できる時期は補助金によって異なります。例えばZEH支援事業であれば1~4次まで公募期間があるため、それぞれに合わせた申請が必要です。また交付要件や応募方法なども、よく確認した上で申請しましょう。基本的に補助金の申請は業者が代行してくれるため、確認してみてください。
ZEH利用者の声
実際にZEHに住んでいる人の声(※7)をご紹介します。
- 今の家では、高い断熱性能と換気システムのおかげで、帰宅時も室温は快適です。太陽光発電と蓄電池を設置しているので、5月の買電の電気使用量は4kWhと電気の自給率がほぼ100%でした。
- 窓を二重サッシにするなど断熱効果を高めたことで、冷え込みが厳しい時にエアコンを補助的に使用した程度で、ほぼリビングの床暖房だけで快適に過ごすことができました。また遮音性能も良くなり、窓を閉めていると雨音や外の騒音がほとんど聞こえない静かな家になりました。
- オール電化住宅にしたことで給湯も含めて収支がHEMSで一目瞭然となり、春になって太陽光パネルの発電量が消費量を大きく上回るようになりました。
このように断熱性能が高ければ、室内が快適になるだけではなく遮音性もアップします。また太陽光発電で自家消費をすることで、自給率を100%にすることも可能です。HEMSを導入すれば電気の「見える化」が実現できるため、無駄な消費を抑えることができます。
※7 参考:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスとは
まとめ
ZEHは「創エネ・省エネ・断熱」の性能が高い住宅です。国が普及を推奨しているため、2020年にはハウスメーカーの半数以上がZEHという現状があります。電気代の削減や室内の快適性アップ、停電対策、資産価値向上などのメリットが魅力的です。気になる点はありますが、国や地方自治体が実施している補助金を活用すれば、お得に住むことができます。補助金を申請する際には、申請時期や交付要件などを確認して行いましょう。興味がある人は当記事を参考にして頂き、より快適でエコなZEH生活を送ってみてはいかがでしょうか。