電気料金を眺めていると、多くなったり少なくなったりしている「燃料費調整額」という項目が気になっている人がいるのではないでしょうか?
燃料費調整額は毎月変動する価格であり、国が定めた制度によって電力会社から請求されます。価格が上下するため、今後の価格がどうなるのかや電気料金が上がる不安があるかもしれません。
今回の記事は、燃料費調整額ついて以下の内容を解説します。
- 燃料費調整額の基本
- 燃料費調整額の仕組み
- エリア別の燃料費調整額
- 燃料費調整額の現状
- 燃料費調整額を抑える方法
燃料費調整額について理解することで早期に電気料金を抑えられる可能性があるため、検討している人は参考にしてみてください。
燃料費調整額とは?
燃料費調整額は、火力発電に必要な化石燃料(原油・液化天然ガス・石炭)の価格変動を反映させるための金額です。自家発電をして自家消費しない限りは、電気を使用していれば発生します。料金明細には「燃料費調整額」「燃料費等調整額」など電力会社によって表記が異なるようです。日本は火力発電に必要な化石燃料の多くを輸入しているため、輸入国の情勢や為替変動で常に価格が変動しています。
国はこのような価格変動に対応するため、平成8年(1996年)1月に「燃料費調整制度」を導入します。当初の制度は四半期ごとに、3ヶ月分の貿易統計価格の平均値から料金を自動で反映していました。しかし平成20年(2008年)6月までに原油価格(WITで134ドル)の急激な高騰が起こるも、11月には50〜60ドルまで急落するといった急激な変化が起きます。3カ月ごとに反映されるため、急激な変化が起これば燃料平均価格も跳ね上がることになります。
国は、このような状況を踏まえて平成21年(2009年)に燃料費調整制度を見直し(詳細は後述)ました。この対策により、従来の制度よりも迅速に反映され大きな変動が起こりづらくなっています。
燃料費調整額が必要な理由
なぜ燃料費調整額が必要なのかといえば、日本は火力発電に必要な化石燃料の多くを輸入に頼っているためです。日本において、火力発電の電力量の割合は2021年時点で71.7%(※1)という非常に高い数字となっています。さらに日本の化石燃料依存度は2019年時点において84.8%(※2)と、こちらも高い水準です。つまり現状では化石燃料に頼った火力発電が必須であることから、燃料費調整額が必要になります。
※1 参考:2021年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報)
※2 :参考:日本のエネルギー 2021年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」
再エネ賦課金との違い
料金明細には、燃料費調整額の他にも「再エネ賦課金」というものも含まれています。両者の違いは、「徴収の目的」と「価格がマイナスになるかならないか」という点です。再エネ賦課金は、再生可能エネルギーで発電した電気をFIT制度で買い取る目的があります。国が定めた一定額が電気使用量に応じて請求される税金のようなもので、再エネの発電が普及するほど価格が上がっていく(2030年ごろがピークといわれている)傾向にあります。
一方で燃料費調整額は、火力発電に必要な化石燃料の価格変動による金額を調整する目的があります。日本は化石燃料を輸入に頼っているため、輸入国の情勢や為替変動の影響を受けます。燃料費調整額も電気使用量に応じて請求されるものの、影響次第で価格がマイナスになる(逆に電気料金が安くなる)ことがあるといった点が大きな違いです。
燃料費調整額の仕組み
燃料費調整額の仕組みに関しては、以下の3つをご紹介します。
- 反映時期
- プラス・マイナス調整
- 燃料費調整額の計算方法
それぞれ解説します。
算定期間と反映時期
現在の燃料費調整額は、過去の制度と同じで3カ月分の貿易統計価格の平均値で算出されます。反映される時期に関しては、従来の3カ月から2ヶ月へと短縮され毎月発生するようになりました。例えば1〜3月までに算出された燃料費調整額が反映されるのは、2カ月後の6月分の電気料金です。
プラス・マイナス調整
電力会社が定めた「基準燃料価格(詳細は後述)」により、燃料費調整額を調整する仕組みを「プラス・マイナス調整」といいます。実際に過去の料金明細を確認すると、燃料費調整額が多く請求されていたり、逆に差し引かれていたりしているかもしれません。化石燃料の仕入れが想定よりも高い場合は多く請求されますし、逆に安い場合は差し引いて利用者に還元します。輸入国の情勢や為替変動によって常に化石燃料の価格は上下しているため、電力会社だけが得をするといった不平等な請求をしないための仕組みでもあります。プラス・マイナス調整の具体例については次で解説します。
燃料費調整額の計算方法
燃料費調整額は「燃料費調整単価✕1カ月の電力使用量」という計算式で求められます。しかし現時点では、燃料費調整単価が分かりません。そこで燃料費単価を求めるわけですが、その前に計算に必要な3つの用語と数字を以下で解説します。
平均燃料価格
平均燃料価格は「原油・液化天然ガス・石炭」の貿易統計それぞれ3カ月分の平均価格です。東京電力エナジーパートナーの2022年11月分(※3)を参考に平均燃料価格を求めてみます。
平均燃料価格の計算式は「A×α+B×β+C×γ」となり、詳細は以下のとおりです。
- A:2022年6月~8月までの平均原油価格96,198円/kl
- α:0.1970
- B:2022年6月~8月までの平均液化天然ガス価格123,030円/t
- β:0.4435
- C:2022年6月~8月までの平均石炭価格49,450円/t
- γ:0.2512
「α・β・γ」は原油換算率に基づく燃料種別ごとの熱量構成比を乗じた数字です。これらを当てはめて計算すると、2022年11月分の燃料調整単価は86,100円/kl(100円単位)となります。最終的には原油1klあたりに換算して使用する価格です。
※3 参考:2022年11月分燃料費調整単価および電気料金の算定(関東エリア)
基準燃料価格
基準燃料価格は、電力会社が料金を設定した当時の平均燃料価格のことです。ここでも東京電力エナジーパートナーの例を挙げると、基準燃料価格は44,200円/kl(※4)となります。
※4 参考:2022年11月分燃料費調整単価および電気料金の算定(関東エリア)
基準単価
基準単価は、平均燃料価格が1,000円/klあたり変動した場合に調整される単価(※7)のことです。電力会社やエリア、プランによって単価は変動します。東京電力エナジーパートナーの場合は、関東エリアにおける従量制の基準単価は1kWhにつき23.2銭(※5)となっています。
※5 参考:燃料費調整制度とは
燃料費調整額の具体例
燃料費調単価に関する3つの要素が分かったため、燃料費調整額を算出できるようになりました。プラス・マイナス調整を考慮した単価の計算式(※6)は以下のとおりです。
【プラス調整の場合】
「燃料費調整単価=(平均燃料価格 ー 基準燃料価格)✕ 基準価格 ÷ 1,000」
平均燃料価格が自社の基準燃料価格よりも高い場合に用いられます。
【マイナス調整の場合】
「燃料費調整単価=(基準燃料価格 ー 平均燃料価格)✕ 基準価格 ÷ 1,000」
平均燃料価格が自社の基準燃料価格よりも低い場合に用いられます。
ここまでで燃料費調整単価が分かるようになりました。そして燃料費調整額を求める計算式は以下のとおりです。
「燃料費調整額=燃料費調整単価 ✕ 月の電力使用量」
燃料費調整額は、このような仕組みや計算で求められています。
※6 参考:燃料費調整制度とは
電力会社ごとの燃料費調整額
燃料費調整額は電力会社ごとに基準燃料価格などが異なるため、一律ではありません。以下では2023年1月度の燃料費調整額(※7)をご紹介します。
【電力会社ごとの燃料費調整額例】
電力会社 | 2023年1月度の燃料費調整額 |
北海道電力 | 3円66銭 |
東北電力 | 3円47銭 |
東京電力エナジーパートナー | 5円13銭 |
北陸電力 | 1円77銭 |
中部電力ミライズ | 5円36銭 |
関西電力 | ~15kWh:33円66銭16kWh~:2円24銭(1kWhごと) |
中国電力 | ~15kWh:47円84銭16kWh~:3円19銭(1kWhごと) |
四国電力 | ~11kWh:28円11kWh~:2円55銭(1kWhごと) |
九州電力 | 1円86銭 |
沖縄電力 | ~10kWh:39円78銭11kWh~:3円98銭(1kWhごと) |
※7 参考:エネチェンジ
今回ご紹介したのは一例であり、プランや時期によって価格は変動します。月やプランごとの燃料費調整額は各電力会社で確認してみてください。
燃料費調整額の高騰が続く可能性は?
燃料費調整額は貿易統計価格の影響で常に変動しており、プラス・マイナス調整によって高くなったり安くなったりしています。しかし近年では原油をメインに輸入コストが上がっており、下記のように燃料費調整額も上昇傾向(※8)にあります。
【WTIの2021~2022年における価格推移】
年月 | 価格(ドル) |
2021年1月 | 52.1 |
2021年2月 | 59.06 |
2021年3月 | 62.35 |
2021年4月 | 61.71 |
2021年5月 | 65.18 |
2021年6月 | 71.38 |
2021年7月 | 72.46 |
2021年8月 | 67.73 |
2021年9月 | 71.56 |
2021年10月 | 81.32 |
2021年11月 | 79.18 |
2021年12月 | 71.53 |
2022年1月 | 83.12 |
2022年2月 | 91.74 |
2022年3月 | 108.49 |
2022年4月 | 101.78 |
2022年5月 | 109.60 |
2022年6月 | 114.59 |
2022年7月 | 99.85 |
2022年8月 | 91.57 |
2022年9月 | 83.87 |
2022年10月 | 82.26 |
2022年11月 | 84.78 |
※8 参考:世界経済のネタ帳
特に2022年の3〜6月までは1バレル100ドル以上の価格になっています。これはロシアによるウクライナ侵攻を受けた影響が大きく、原油の供給が少なくなり高騰した結果です。その他、液化天然ガスや石炭の一部をロシアから輸入していたものの、経済制裁として輸入を禁止する措置を取りました。さらに2022年は急激な円安によって、化石燃料の輸入コストが上がったことも挙げられるでしょう。
7月以降は100ドル以下で推移しており一旦は落ち着きつつありますが、まだまだ2021年の平均値よりは高い状態が続いています。今後もウクライナ侵攻などの影響により化石燃料の供給が少なくなる一方で、各国のエネルギー需要が高まることになれば燃料費調整額の高騰が続く可能性はあるといえるでしょう。
燃料費調整額の上限を撤廃する電力会社もある
高騰が予想される燃料費調整額に対して、電力会社によっては設定していた上限を撤廃する動きが出ています。本来は国際情勢などの影響で輸入コストの増加に関係なく、燃料費調整額の算出に必要な平均燃料価格は「基準燃料価格の1.5倍」という上限が設定されています。規制料金(電力自由化以前のプラン)では上限があるものの、自由料金(電力自由化以降のプラン)では上限を設定するかどうかは電力会社が決められます。このような背景もあり、近年のエネルギー需要とウクライナ侵攻、円安の影響で多くの電力会社が上限を撤廃し始めています。
上限を撤廃した電力会社の例
ここでは実際に燃料費調整額の上限を撤廃した新旧の電力会社(※9)をご紹介します。
【上限を撤廃した旧電力とプラン例(自由料金)】
電力会社 | プラン | 撤廃時期 |
北海道電力 | エネとくプランエネとくシーズンプラスドリーム8 など | 2022年12月~ |
東北電力 | よりそう+ファミリーバリューよりそう+シーズン&タイムよりそう+ナイト12 など | 2022年12月~ |
中部電力 | ポイントプランおとくプランとくとくプラン など | 2022年12月~ |
四国電力 | でんかeプランでんかeマンションプラン時間帯別eプラン など おとくeプランスマイルAPプランでんか引越しプラン など | 2022年11月~ 2023年5月~ |
九州電力 | スマートファミリープランスマートビジネスプラン季節別電灯 など | 2022年10月~ |
【上限を撤廃した新電力例】
新電力 | 撤廃時期 |
ENEOSでんき | 2022年11月~ |
大阪ガス | 2022年11月~ |
はりま電力 | 2022年10月~ |
トドック電力 | 2022年9月~ |
水戸電力 | 2022年9月~ |
オカモト | 2022年8月~ |
西部ガス | 2022年8月~ |
坊っちゃん電力 | 2022年7月~ |
楽天エナジー | 2022年6月~ |
ユビニティー | 2022年3月~ |
※9 参考:エネチェンジ
これらはあくまで一例であり、2022年以降から多くの電力会社が燃料費調整額の上限撤廃を行っています。燃料費調整額は電力会社がコントロールできるものではないため、今後の高騰に備えて抑える対策を各家庭が実施するしかありません。
令和5年9月末までは激変緩和措置によって、燃料調整費が安くなる!
日本政府は続く原油価格・物価高騰に対して燃料油価格激変緩和対策事業を開始しました。
これはガソリン/軽油/灯油/重油/航空機燃料の売価が安くなる仕組みとなっております。
電気を創るために必要なエネルギーも値しますので燃料調整費が安くなりますので電気代が一時的に下がる予定です。
高騰する燃料費調整額を抑える方法
今後、高騰する可能性がある燃料費調整額に対して、いかに家庭でできる対策をしていくかが重要です。有効な対策として挙げられるのは以下の2つです。
- 契約している電力会社やプランを見直す
- 太陽光発電の導入を検討する
それぞれ解説します。
契約している電力会社やプランを見直す
まずは、シンプルに契約している電力会社やプランを見直すことから始めましょう。燃料費調整額は電力会社やプランによって異なります。そのため、他の電力会社やプランと比較して高いのか安いのかを把握してください。燃料費調整額は今後も高騰する可能性があり、上限を撤廃する電力会社が増えています。電力会社やプランを見直して変更することで、電気料金を抑えられる可能性があります。根本的に電気料金を抑えることができれば、燃料費調整額が下がった時の恩恵も大きくなるでしょう。
太陽光発電の導入を検討する
自然エネルギーである太陽光発電で自家発電・自家消費をすることで、燃料費調整額を削減したり0円に抑えることが可能です。家庭で使用する電気を太陽光発電で全てまかなうことができれば、電力会社から電気を購入する必要がないため電気料金は0円になります。100%の自家発電・自家消費が難しい場合でも、太陽光発電の電気を利用することで電気料金を削減できます。燃料費調整額は電気使用量が増えるほど高くなるため、自然エネルギーを活用できる太陽光発電の導入はおすすめです。初期費用の目安は100万円前後となっていますが、補助金やリースなどを利用すればお得に導入できるため検討してみてください。
まとめ
燃料費調整額は電気料金に加算され毎月変動し、輸入国の情勢や為替変動などの影響でプラスになったり、マイナスになったりします。近年ではロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響により、燃料費調整額の高騰が危惧されています。こうした現状から、電力会社の多くは燃料費調整額の上限を撤廃する動きを見せており、今後の電気料金の負担が増えるかもしれません。しかし燃料費調整額は電力会社がコントロールできるものではないため、各々ができる対策を行うことが大切です。現状を把握しながら電力会社やプランを見直したり、太陽光発電の導入を検討することで、根本的な電気料金の削減に取り組んでいきましょう。