「FIT制度って太陽光発電で売電するときに重要みたいだけど、具体的にどんな制度なの?」「FIT制度に似たFIP制度もあるけど、なにが違うんだろう?」といった疑問を持っている人がいるのではないでしょうか?
FIT制度は太陽光発電において重要な制度であり、売電収入に大きく関わってきます。またFIP制度はFIT制度の弱点を補うためにできた制度です。今後、太陽光発電で売電収入を得るのであれば、これらの制度を理解しておくと良いでしょう。
今回の記事では、FIT制度とFIP制度について、それぞれをわかりやすく解説します。本記事を読めばFIT制度やFIP制度について理解が深まり、電気代の削減や売電収入がアップする可能性があります。ぜひ、それぞれの制度について学んでみてください。
FIT(固定価格買取制度)とは?
FITは太陽光発電で売電する際に重要な役割を持っている制度です。FIT制度のことを知ることで、今後の電気代が安くなる可能性があります。FIT制度についてわかりやすく解説していきますので、ぜひ読み進めてみてください。
FIT制度は政府が決めた単価で再エネ電気を売電できる制度
FITとは太陽光や風力などの再生可能エネルギー(以降、再エネ)で発電した電力を、政府が決めた期間と単価で電力会社が買い取ることを保証する制度です。FITは「Feed in Tariff(フィード・イン・タリフ)」の略で「固定価格買取制度」のことを指しています。
FIT制度の単価は経済産業省が実施している調達価格等算定委員の意見をもとに毎年、経済産業大臣が決定。単価は再エネ発電の設置コストをもとに、価格目標や全体の適正な利益などを考慮して反映されます。
FIT制度はエネルギー自給率アップと再エネ普及のために作られた
2012年から始まったFIT制度は、日本のエネルギー自給率アップと再エネ普及の目的で開始されました。
現在の日本は7割以上の電力を火力発電で賄っており、必要な資源であるLNG(液化天然ガス)・石炭・石油のほとんどを海外からの輸入に頼っています。そのため2019年時点ではOECD(経済協力開発機構)38カ国のなかで、エネルギー自給率が35位という結果でした。
さらに火力発電は二酸化炭素の排出量が、ほかの発電方法に比べて多いのが気になる点です。政府は2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする「脱炭素社会」を目指しています。二酸化炭素の排出量を削減できるだけではなく、国内でも生産できるエネルギー源として自給率アップや安定供給のために、政府は再エネの普及に取り組んでいます。
しかし再エネで発電するには高額な導入費用が必要になります。そのため政府は再エネの導入に関わる導入費用の負担を少しでも減らし、普及させられるようにFIT制度を開始。
FIT制度が開始されたことで、再エネ発電をおこなう事業者は設置や運用コストが抑えられるようになりました。その結果、再エネのなかでも特に太陽光発電の普及が著しく伸びています。isepのデータによれば2014年は1.9%ほどでしたが、2021年には9.3%まで順調に増加しています。
FIT制度の買取費用の一部は再エネ賦課金で賄われている
FIT制度で電力を買い取る費用の一部は「再生可能エネルギー発電促進賦課金(以降、再エネ賦課金)」で賄われています。再エネ賦課金は電力会社と契約している各家庭が、必ず負担する税金のようなものです。
特徴は毎年の買取価格などを考慮して経済産業大臣が決定していることに加え、全国一律の価格であることが挙げられます。また「電気使用量✕再エネ賦課金単価」で算出されるため、電気使用量に比例して電気代が上がる点も特徴です。
FIT制度のメリットは2つ
FIT制度には2つのメリットがあります。それぞれのメリットも学び、FIT制度について理解を深めていきましょう。
エネルギー自給率がアップする
FIT制度はエネルギー自給率アップの効果があります。現在の日本においてエネルギー自給率をアップさせるには、国内でも生産できる再エネの普及が必須です。ただし再エネで発電するには高額な設置や運用コストがかかってきます。
FIT制度によって再エネで発電した電気を買い取ることで、事業者の金銭的負担が減るため参入しやすくなります。実際に日本のエネルギー自給率は、以下のように徐々に上がってきていることがわかるでしょう。
【日本のエネルギー自給率の推移】
年度 | エネルギー自給率 |
2010年度 | 20.2% |
2011年度 | 11.6% |
2012年度 | 6.7% |
2013年度 | 6.5% |
2014年度 | 6.3% |
2015年度 | 7.3% |
2016年度 | 8.1% |
2017年度 | 9.4% |
2018年度 | 11.7% |
2019年度 | 12.1% |
※参考:経済産業省
2010年以降は東日本大震災の影響で原子力発電の停止などにより低下していますが、その後は徐々に復興してきたことでエネルギー自給率が戻ってきています。また再エネのなかでも特に太陽光発電の普及が進んでいることは、エネルギー自給率アップに貢献しているといえるでしょう。
このようにFIT制度によって再エネの発電が参入しやすくなれば国産の電力が増えていき、日本のエネルギー自給率がアップしていくと考えられます。
電気代を削減できる
FIT制度を活用すれば電気代を削減することも可能です。再エネで発電した電力を電力会社に売電すれば収入が得られます。得られた収入を電気代に充てることで削減できるでしょう。
またFIT制度の期間中は買取単価が保証されているため、安定した買電収入が得られます。近年は世界情勢の影響や国内の電力供給不足などにより電気代の高騰が続いています。今後も電気代の高騰が予想されているため、安定した売電収入が得られるのはメリットといえるでしょう。
FIT制度のデメリットは2つ
FIT制度には2つのデメリットがあります。メリットだけではなくデメリットも知っておくと、より理解が深まります。ここではデメリットの対策も含めて解説するので、ぜひ学んでみてください。
買取期間終了後は単価が大きく下落する
FIT制度で保証された期間が過ぎると買取単価が大きく下落します。保証された単価で電力を買い取ってくれる期間は家庭用の10kWh未満で10年、事業用となる10kWh以上で20年と限定されています。
特にFIT制度が始まったころから再エネ発電をおこなっていた人ほど、期間が過ぎると下落幅が大きくなってしまうでしょう。例えば、2012年に10kWh未満でFIT制度が適用されている場合の単価は42円/kWhです。一方で卒FIT後(FIT期間が終了した後)の単価は各電力会社で以下のとおりです。
【2022年時点の大手電力会社の買取単価】
電力会社名 | 買取単価 |
北海道電力 | 8.0円/kWh |
東北電力 | 9円/kWh |
東京電力エナジーパートナー | 8.5円/kWh |
中部電力ミライズ | 7円/kWh |
北陸電力 | 8円/kWh |
関西電力 | 8円/kWh |
中国電力 | 7.15円/kWh |
四国電力 | 7円/kWh |
九州電力 | 7円/kWh |
沖縄電力 | 7.7円/kWh |
※参考:SHARP
2012年から10kWh未満で売電していた人は、最大で1/7まで単価が下がっていることがわかります。卒FIT後は売電収入が大きく下がってしまうことが容易に予想できるでしょう。
卒FIT後は契約している電力会社で売電を続けられますが、単価に不満があれば他の電力会社へ自由に乗り換えることができます。その際は大手電力会社よりも単価が高めな、新電力の買取サービスを検討してみてください。ただし買取サービスは単価や条件などが異なるため、よく確認してから申し込んでみましょう。
また売電するよりも自家消費に充てたほうが、電気代がお得になる場合もあります。例えば電力会社へ10円/kWhで売電するよりも、20円/kWhで買電するはずだった電力を再エネで発電して自家消費すれば、10円/kWh分の電気代が安くなります。
買取単価は年々下がっている
毎年、経済産業大臣が決定している太陽光発電の買取単価は以下のとおり下がっています。
【買取単価の推移】
年度 | 1kWhあたりの買取単価 |
2012年度 | 42円 |
2013年度 | 38円 |
2014年度 | 37円 |
2015年度 | 出力制御対応機器設置義務あり:35円なし:33円 |
2016年度 | 出力制御対応機器設置義務あり:33円なし:31円 |
2017年度 | 出力制御対応機器設置義務あり:30円なし:28円 |
2018年度 | 出力制御対応機器設置義務あり:28円なし:26円 |
2019年度 | 出力制御対応機器設置義務あり:26円なし:24円 |
2020年度 | 出力制御対応機器設置義務あり・なし:21円 |
2021年度 | 出力制御対応機器設置義務あり・なし:19円 |
2022年度 | 17円 |
2023年度 | 16円 |
※10kW未満
※参考:経済産業省
買取単価が下がっているのは再エネが普及しやすくなっているためです。多くのメーカーが参入してきたことにより、技術の進歩や生産量によって製造コストが下がり導入しやすくなりました。また格安な海外メーカーの影響による価格競争によって、一般家庭でも設置しやすい時代になっています。
FIT制度は再エネを普及させるために設置・運用コストを負担する目的があるため、普及するほど単価が下がっていく仕組みです。そのため今後も買取単価が下落していくと予想されています。仕組み上、買取単価が下がることに対してできることはありません。
ただし太陽光発電を導入していない家庭よりは、単価が下がっても売電収入により電気料金は安くなる可能性が高いといえるでしょう。
再エネ賦課金の負担が増加傾向にある
再エネ賦課金は再エネで発電した電気を買い取るための費用です。再エネが普及するほど以下のように増加しています。
【再エネ賦課金の推移】
年度 | 1kWhあたりの買取単価 |
2012年度 | 0.22円/kWh |
2013年度 | 0.35円/kWh |
2014年度 | 0.75円/kWh |
2015年度 | 1.58円/kWh |
2016年度 | 2.25円/kWh |
2017年度 | 2.64円/kWh |
2018年度 | 2.90円/kWh |
2019年度 | 2.95円/kWh |
2020年度 | 2.98円/kWh |
2021年度 | 3.36円/kWh |
2022年度 | 3.45円/kWh |
2023年度 | 1.40円/kWh |
※参考:新電力ネット
経済産業省によれば2021年度の再エネ賦課金の負担額は、総額で2.7兆円にまで膨らんでいます。2023年度の単価が下がっている理由は、再エネ賦課金を算出する際に必要な「回避可能費用」が増加したためです。
回避可能費用とは電力会社が再エネを買い取ることで、本来の発電に必要だった支出分の費用。再エネ賦課金は年度で想定される買取費用から、回避可能費用や事務費を差し引いたうえで販売電力量を割って出しています。
2022年はウクライナ問題により回避可能費用に関わる化石燃料の価格が大幅に上昇したため、差し引く費用が増加したことで再エネ賦課金が下がりました。しかし回避可能費用の増加は一時的な可能性があるため、今後も再エネ賦課金が下がるとはいえない状況です。
ただし再エネ賦課金はFIT制度の期間終了に伴って、2030年ごろからは下落することが予想されています。そのため自分でできる節電対策や卒FIT後の買取業者の乗り換え、自家消費に充てることが再エネ賦課金の対策といえます。
FIP(フィードインプレミアム)制度とは?
FIPは2022年4月から開始された新しい制度です。FIP制度を理解しておけば、売電収入がアップする可能性があります。それではFIP制度について学んでいきましょう。
FIP制度はFITの課題を解決するために生まれた
FIPは「Feed in Premium(フィード・イン・プレミアム)」の略で、FITの課題を補うために生まれた制度です。FIT制度の課題の1つは再エネ賦課金の増加が挙げられます。一定価格で買い取るFIT制度においては、再エネが普及するほど再エネ賦課金が高くなりやすくなります。
また再エネを日本の主力電源としていくためには、市場と連動している電力市場への統合が必要です。FIT制度は電力市場の相場とは切り離されており、どのタイミングで売電しても買取単価は一定なので、需要と供給のバランスを考えなくても問題ありませんでした。
しかし主力電源にするためには、火力発電などの電源と同じように電力市場の需要と供給を考慮して発電をおこなわなければいけません。このような課題を克服するために、電力市場と連動しているFIP制度が始まりました。
FIPとFITの違いは電力市場との連動とプレミアム価格の有無
FIPとFITとの違いの1つは電力市場と連動しているかどうかです。FIPは電力市場と連動していますが、買取単価が固定されているFITは連動していません。
またFIP制度には売電収入に上乗せされる「プレミアム価格(補助額)」があります。電力市場の売電価格に応じて一定のプレミアムが付く仕組みです。プレミアム価格は算出に必要な「基準価格」や「参照価格」などの変動により、1カ月ごとに見直されています。
FIPのメリットは3つ
FIPのメリットは3つあります。FIPにはFITにないメリットがあるため、活用するかどうかの判断材料として覚えておくと良いでしょう。
売電収入が増える可能性がある
FIPは電力市場と連動しているため、売電するタイミング次第では収入が増加する可能性があります。例えば電力需要が多くなる時期に発電して貯めておいた電力を売電すれば、ほかの時期よりも売電収入が多くなるでしょう。
相場を見て売電タイミングが決められる
FIPは電力市場の相場を見て自由に売電できます。そのため売電収入をアップさせるための戦略が立てやすくなります。一方でFIT制度は政府が決めた買取単価で売電するため、どの時期に売電しても価格は同じです。
アグリゲーションビジネスの普及
FIP制度が普及すればアグリゲーションビジネスという、新たな事業が活性化する可能性があります。アグリゲーションビジネスは、小規模な再エネ事業者を取りまとめて電力市場での取引をおこなう事業のことを指します。
全ての再エネ事業者が電力市場の需要と供給のバランスを考えられるとは限らないため、仲介役であるアグリゲーターによって電力の管理や取引などを代行してもらえます。アグリゲーションビジネスは、再エネ事業者が参入しやすい環境の構築に期待されている事業です。
FIPのデメリットは2つ
FIPのデメリットは2つあります。FIPならではのデメリットもあるので、活用を検討している人は理解しておくと良いでしょう。
長期的な戦略は立てにくい
FIP制度は電力市場と連動していることで常に価格が変動しているため、FITのように長期的な戦略は立てにくくなります。電力市場の価格は、予測が難しい世界情勢の影響によっても大きく変化します。戦略は短期や中期で立てると良いでしょう。
FIP制度が適用されるのは50kW以上のみ
2023年時点でFIP制度へ移行できるのは、太陽光発電でいえば50kW以上となっています。そのため主に家庭用の10kW未満には対応していません。今後しばらくはFIPとFITが併存しながら、再エネの普及を図っています。
まとめ
FITは再エネの普及とエネルギー自給率をアップさせる目的でスタートした制度です。特に太陽光発電の普及は進んでおり、2050年の脱炭素社会の実現が期待されています。一方で再エネ賦課金が増加して負担が増えるといった気になる点もあります。
このようなFITの課題を解消するために生まれたのがFIP制度です。FIPは電力市場と連動しており、プレミアム価格を上乗せした売電収入が得られます。好きなタイミングで売電できるため、需要が高い時期に取引すれば売電収入アップに期待できるでしょう。
長期的な戦略が立てにくかったり活用できる事業者は限られていたりしますが、今後はFITとFIPの併存により再エネの普及が進む可能性が高いといえます。状況によっては電気代の削減や売電収入が上がる可能性があるため、ぜひFITやFIP制度を有効活用してみてください。